【症例1】
主訴:耳鳴、難聴
現病歴:「ビビビビ」という耳鳴がする。鳴ったり鳴らなかったりずっと繰り返している。相手の言葉が聴こえない時があるくらい。左耳は小児期の中耳炎が原因で難聴。 昨年介護をしていた母を看取り、介護疲れがある。
現症:舌候 淡紅・舌下静脈怒脹±、脈候 硬、腹候:腹力3/5、両胸脇苦満±、心下痞±、血圧156/80
【経過】
気鬱、気逆、血虚、水滞、寒証 と考え柴朴湯、八味丸。Day7、 1日飲んだら血圧が上がり首から上が暑くなったのですぐに柴朴湯を中止した。Day37、寒くなったり、夜間になると耳鳴が聞こえてくる。でも八味丸飲んでいると少し良い感じがする。Day86、血圧140-150だったのが120-130へ下がってきた。耳鳴は2/10くらいで、人の話も聞こえるし、耳鳴自体を忘れることも増えた。テレビのボリュームも下がった。そういえば、流涙がなくなり、新聞の字も見えるようになり、白髪も減って染めなくてよくなった。
【症例2】
主訴:高血圧、耳鳴
現病歴:前医で降圧剤をもらっていたが、内服すると不整脈や耳鳴が悪化するので飲んでいない。2012年2.20当科受診。
既往歴:コディオで不整脈、アムロジピンで耳鳴悪化、アパプロで火照る
現症:舌候 淡紅・舌下静脈怒脹+・瘀斑+・口唇に著明な瘀斑散在++、脈候 硬、腹候: 見ていない、血圧156/76。
【経過】
瘀血と考えたが、降圧を優先させ七物降下湯、セララも併用。Day 7、126/58と低下。耳鳴は少し静かになった。Day14、体調が良くなってきた。耳鳴もあるが忘れているくらい。
Day30、平均血圧130-150/65。体調が良い。前のような疲労倦怠感、すぐ臥床してしまうことはなくなった。とにかく体調が良い。耳鳴はあるがあまり気にならなくなった。夜もよく眠れるようになってきた。口唇の色素沈着も薄くなってきた気がする。右第2指の爪の色素沈着も薄くなってきた。瘀点や瘀斑、苔も薄くなってきた。
Day75 140/70。調子良くて何でも食べられるようになり、ちょっと太ってきた。
Day109 血圧が下がりフラフラする時があるので、セララを間引いていた。七物降下湯を飲んでから、食欲が出て、元気になって体調が良くなってきた。それまでは1年で10kg痩せてきていたが、徐々に戻ってきた。セララ50mgから25mgへ減量。
私が最も使うのは、実証は大柴胡湯もしくは黄連解毒湯、虚証は八味丸や七物降下湯、釣藤散である。この他、肝気鬱結がある場合は、大柴胡湯以外にも柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を用い、水滞がある場合は苓桂朮甘湯や半夏白朮天麻湯を用いることがある。
現代医学を嫌って、漢方による高血圧治療をご希望する方もいらっしゃるが、高血圧に関しては、現代薬が極めて有効で、速やかに下げてくれるので、私はもちろん漢方薬も処方するが、降圧剤の併用も強くお勧めしている。動脈硬化の進展を防ぎ、将来の脳梗塞や心筋梗塞を予防することが何より大切である。