【症例1】
主 訴:嘔気、頭痛
現病歴:
X年年12月に帝王切開で出産してからというもの、ずっと嘔気と頭痛、体調不良が続いている。近医で頭部CT撮影するも異常なしと言われた。ずっと主訴で苦しめられており、とにかく何とかして欲しいと漢方治療希望でX+1年/3/23当科受診。
現 症:舌候 淡紅、脈候 弦、腹候 3/5・心下痞+・左臍下圧痛+
経 過:
03/23 産後の肥立ちが悪い状態で、虚証、気虚、血虚、水滞と考え六君子湯、当
帰芍薬散3×と五苓散を頭痛時頓服とした。
03/26 嘔気もなくなり体調も良くなってきた。元気になってきた。頭痛時は五苓
散が効く。笑顔があり見違えるほど元気になっている。3ヶ月は続けるよう
指導。
07/03 漢方がなくなった後ずっと市販の鎮痛剤を飲んでいた。07/01から嘔吐で起き 上がれなくて寝込んでいた。頭痛だけでなく首筋もびんびんに張っている。ま た漢方治療して欲しい。五苓散、当帰芍薬散3×と呉茱萸湯を頭痛時頓服とし
た。
08/04 薬は飲んだり飲まなかったり。五苓散と当帰芍薬散を飲み忘れると頭痛、
肩こりが出てくる。呉茱萸湯は効くが即効性がない。
【症例2】
主 訴:頭痛、嘔気、めまい
現病歴:
X年年9月初旬より頭が全体的に重い、首が痛い、朝起きるとめまい、嘔気があるなどの症状が続き、9/25当科受診。
現 症:舌候 淡紅、脈候 硬・弦、腹候 診ていない、血圧130/80
抑うつ顔貌、やや顔面紅潮、手冷++、こもった声
経 過:
X年
09/25 気鬱、気逆と考え、半夏厚朴湯、五苓散とした。
10/04 嘔気とめまいは治った。頭重感と首の痛みは残っている。更に理気するため、 蘇葉0.9g3×追加。その後しばらく受診なし。
X+1年
03/14 1週間前から食欲がない。頭痛、首の痛み、めまいがする。前薬処方。
03/21 めまい、嘔気なくなり食べられるようになった。頭から首にかけて重い感
じはある。ついでに毎朝のてのこわばりがなくなったので継続して飲みたい。
04/11 頭から首にかけての重い感じも1/10へ改善。朝の手のこわばりは3/10。
X+2年
06/05 現在も継続し、体調良好を保っている。
【症例3】
主 訴:頭痛、嘔気、めまい
現病歴:
X年年9月初旬より頭が全体的に重い、首が痛い、朝起きるとめまい、嘔気があるなどの症状が続き、9/25当科受診。
現 症:舌候 淡紅、脈候 硬・弦、腹候 診ていない、血圧130/80
抑うつ顔貌、やや顔面紅潮、手冷++、こもった声
経 過:
X年
09/25 気鬱、気逆と考え、半夏厚朴湯、五苓散とした。
10/04 嘔気とめまいは治った。頭重感と首の痛みは残っている。更に理気するため、 蘇葉0.9g3×追加。その後しばらく受診なし。
X+1年
03/14 1週間前から食欲がない。頭痛、首の痛み、めまいがする。前薬処方。
03/21 めまい、嘔気なくなり食べられるようになった。頭から首にかけて重い感
じはある。ついでに毎朝のてのこわばりがなくなったので継続して飲みたい。
04/11 頭から首にかけての重い感じも1/10へ改善。朝の手のこわばりは3/10。
X+2年
06/05 現在も継続し、体調良好を保っている。
【症例4】
主 訴:食中毒、嘔吐
現病歴:
旅行中、スーパーで売れ残りタイムサービスの食品を購入。食後4時間の深夜1時から激しい嘔気、嘔吐を繰り返し、嘔吐物がなくなった後も、強い嘔吐反射が残り、上半身と腹筋の筋肉痛を訴えるほどだった。
現 症:舌候 淡紅、脈候 数、腹候 3/5、心下痞、顔色不良
経 過:
五苓散エキス剤を2回飲ませたが2回ともすぐに嘔吐で排出。翌朝9時になっても嘔気嘔吐のため、飲食不能の状態が続き、脱水が心配された。残り少ない五苓散を有効に使う必要があったことと、脱水対策も兼ねて、五苓散2包を500mlのお湯に溶かし、冷ましてペットボトルに入れて五苓散ドリンクを作成。一口ずつでもよいから継続的に飲ませることとした。しばらく嘔吐は続いたが、徐々に嘔吐反射は減り、少量ずつではあるが、継続的に五苓散ドリンクを飲むことができるようになってきた。顔色不良も徐々に改善し、生気を取り戻してきた。午後2時にはバナナ1本を食べれるようになり、その後3本を平らげた。旅行には五苓散が必携である。
もっとも頻用されるのが五苓散であろう。これは嘔気だけではなく、車酔いや船酔い、めまいなど乗り物酔い、そして症例にもあるように食中毒を含む胃腸炎にも広く使え、まさに旅行には必携の方剤である。幼稚園や学校の遠足で、バスに酔う子供には、症例4にあるように五苓散ドリンクを水筒に入れて持たせるとよい。多少砂糖や蜂蜜を加え甘く飲みやすくすると良い。
この他、妊娠悪阻、いわゆる「つわり」に用いられるので有名なのが小半夏加茯苓湯である。妊娠は体の循環血液量が増えるため、漢方では水滞状態と言える。これを是正する目的でも小半夏加茯苓湯は有効であろう。つわりには五苓散も用いられる。
五苓散、小半夏加茯苓湯以外には、二陳湯、人参湯、六君子湯、茯苓飲、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、呉茱萸湯、半夏白朮天麻湯などが挙げられるが、用いられる機会は少ない。