こむらがえり


【症例1】

主訴:腰痛、左下肢しびれ、倦怠感、冷え、こむら返り無月経、食後の眠気

現病歴:

腰痛、下肢しびれで整形受診、精査するも異常指摘されず、X1/6漢方治療希望で当科受診。月経はX-13月から止まっている。

 

現症:舌候 淡紅、脈候 弱・渋、腹候 腹力2/5、腹壁がガチガチ、くすぐったがり   ++、腹壁は薄い

【経過】

Day0 気血両虚、寒証と考え、十全大補湯、加工附子末1g3×。

Day15 こむら返りはなり、体も温まり、食後の眠気もなくなった。腰痛、しびれ、   冷えは同じ。

Day49 薬を2週間ほど切らしていた。飲んでいる間は、下肢しびれ、だるさ、冷えは   よくなっていた。薬がなくなってからあくびが増えた。紅参末1.2g3×追加。

Day139 2×で飲んでいた。飲まないと凄く疲れてあくびがすごくなる。

Day216 スポーツジムを5-6/週行けるくらい元気になったが、過労で受診。風邪を   引きやすくなった。ほどほどにするよう養生を指導し、同じ処方を継続とし    た。


【症例2】

主 訴:倦怠感、抑鬱気分、こむら返り

 

現病歴:

 X7月始めから疲れがとれなくなった。朝は起き上がれないほど疲労し、服を着るのに5時間くらいかかることがあった。その後回復したが、少し運動するとすぐに疲れるようになった。空腹感はないが無理をすれば食べられる。動こうと思えば動けるがとてもだるい。あるアスリート競技の大会にも出ていたが、今年は成績が良くなかった。ストレスもあり気持ちが落ち込んでいる。

 

現 症:声に力がなく、表情がない

    舌候 淡紅、脈候 平、腹候 3/5

【経過】

08/19 気鬱、気虚、静かな鬱と考え、補中益気湯、香蘇散。

 

09/05 疲れるが大分楽になった。2時間連続で動けるようになった。2服目くらいから

   効果を感じた。以前のように走れる気がしてきた。

 

その後、道ばたでお会いしたら、すっかり元気になっていた。

 

10/23 風邪で受診。「11/1に外国で世界大会に出ることになった。練習のしすぎが祟

   って関節が痛い。前屈もできないくらい痛い。腱鞘炎になり整形で安静にして

   いなさいと言われたが、内緒で選考レースに出て無理をしていた。なんとして

   も世界大会に出たい。」

   →風邪には葛根湯、関節痛には瘀血を考え桂枝茯苓丸を2週間。関節痛には芍薬

    甘草湯の頓服を渡した

 

 

後日来院。「灼熱の中、多くの棄権者が出る中、完走できました。ほとんどの選手が何度も足をつっていましたが、芍薬甘草湯飲んでレースに出たら、私は1回もつりませんでした。驚きました。本当にありがとうございました!」と笑顔で話される。

 

X+2年

5月 外国からエアーメールが届く。

世界大会予選に来ている。ジャングルのコースで、とても暑く湿度が高い環境ですが、なんとか完走したいと思います

翌日 またエアメールが届く。

「なんとか完走できて上位に入りました!嬉しい反面、世界大会への切符を逃しくやしいです。でも今回も残っていた芍薬甘草湯を飲んで参加し、1回も足をつることなく、力を発揮することができました。アスリートが使っているどんなサプリよりも漢方が効きます。漢方はすごいです。ありがとうございました!」


こむらがえりの漢方治療


 こむら返りは、年齢を重ねると誰しも経験するふくらはぎを中心とする痛みを伴う下肢の筋肉のけいれんです。現代医学的にもはっきりとした原因はわかっていませんが、筋肉疲労や血流障害が要因としてあげられています。残念ながら、現代医学では特効薬はなく、もっとも有効とされているのが、芍薬甘草湯です。これは特効薬的に効くので、多くの先生に広く使われている大変有名な処方です。芍薬甘草湯はこむらがえりだけではなく、色々な筋肉の痛み、関節の痛みばかりではなく、胃腸炎などの腹痛にも効く、非常に便利な薬として重宝されます。

 こむら返りは東洋医学では「血虚」として捉えますので、基本的には「補血剤」を用います。芍薬甘草湯も補血剤の一種です。補血剤には、四物湯類の当帰芍薬散や当帰四逆加呉茱萸生姜湯、芎帰膠艾湯、十全大補湯などがありますが、こむらがえりに用いることは少ないです。他に甘麦大棗湯などを用いることもあります。