主 訴:音がこもる、反響する、頭がぼーっとする、胃が重い
現病歴:1年前から上記主訴出現し近医耳鼻科受診。耳管開放症と診断。漢方治療目的に、X年11月21日、当科紹介受診。
現 症:舌候 淡紅・歯痕跡±、脈候 弦
経 過:
X年
11/21 上焦の水滞と考え五苓散。
12/12 症状は嘘のように良くなった。自分の声の反響などほとんどなくなった。五苓散飲まないと再発、再開すると治まるので継続処方希望。
X+1年
01/30 五苓散希望。飲んでいると耳の調子が良い。
耳管開放症とは中耳と咽頭をつなぐ耳管が常に開放した状態をいう。自覚症状としては、耳閉感、自声強調、呼吸音が聞こえるなどがあり患者さんにとっては不快な状態が続く。
原因には体重減少やシェーグレン症候群、三叉神経障害などが挙げられている。現代医学的治療は、生活指導によるやせの改善、薬物治療の他外科的治療があるが、難治性疾患の一つと言われている。
文献によると、最も有名なのは加味帰脾湯が挙げられる。66例中75%が改善したと報告されている。これまで報告された方剤を挙げる。
・加味帰脾湯
・補中益気湯
・半夏白朮天麻湯
・帰耆建中湯(当帰建中湯+黄耆建中湯)
いずれも虚証、特に気虚、血虚の患者が多いと捉えられている。耳管の緊張低下を下垂体質と捉えている。
検索した範囲では、五苓散の報告はなかった。現代医学的には、耳管組織への脂肪やシリコンの注入で物理的に耳管を狭くする治療もあることから、五苓散で利水をすることは逆治療のように見える。しかし実際に有効であったことから、五苓散によって偏在した水毒が改善され、耳管周囲の血流が改善、耳管が閉鎖の方向に向かったのではないかと推察された。今後の追試が必要である。