【症例1】
耳鳴で漢方治療をしていたが今ひとつ効果がない。前医からごう内科クリニックへ転院。耳鳴は週の半分は良いが、残りの半分で「シュー、キーン」という高い音が聞こえる。
現症:舌候 舌質は厚い・淡紅、脈候 硬、腹候 不明
【経過】
元々の柴胡加竜骨牡蛎湯に八味丸を追加。Day30、9/10と僅かに改善。熱証、肝気鬱結も疑い荊芥連翹湯、八味丸とした。Day45、週のうち4日間耳鳴がしなくなった。実は頻尿があったが、それも良くなってきた。Day80、5日良くて2日間だけ耳鳴あり、5/10まで改善。Day140、週の大半が静かになった、4/10。
【症例2】
主訴:耳鳴、難聴、高血圧
現病歴:「ビビビビ」という耳鳴がする。鳴ったり鳴らなかったりずっと繰り返している。相手の言葉が聴こえない時があるくらい。左耳は小児期の中耳炎が原因で難聴。 昨年介護をしていた母を看取り、介護疲れがある。
現症:舌候 淡紅・舌下静脈怒脹±、脈候 硬、腹候:腹力3/5、両胸脇苦満±、心下痞±、血圧156/80
【経過】
気鬱、気逆、血虚、水滞、寒証 と考え柴朴湯、八味丸。Day7、1日飲んだら血圧が上がり首から上が暑くなったのですぐに柴朴湯を中止した。Day37、寒くなったり、夜間になると耳鳴が聞こえてくる。でも八味丸飲んでいると少し良い感じがする。Day86、血圧140-150だったのが120-130へ下がってきた。耳鳴は2/10くらいで、人の話も聞こえるし、耳鳴自体を忘れることも増えた。テレビのボリュームも下がった。そういえば、流涙がなくなり、新聞の字も見えるようになり、白髪も減って染めなくてよくなった。
【症例3】
主訴:高血圧、耳鳴
現病歴:前医で降圧剤をもらっていたが、内服すると不整脈や耳鳴が悪化するので飲んでいない。X年2.20当科受診。
既往歴:コディオで不整脈、アムロジピンで耳鳴悪化、アパプロで火照る
現症:舌候 淡紅・舌下静脈怒脹+・瘀斑+・口唇に著明な瘀斑散在++、脈候 硬、腹候: 見ていない、血圧156/76。
経過:瘀血と考えたが、降圧を優先させ七物降下湯。セララも併用。
Day 7、126/58。耳鳴は少し静かになった。
Day14、体調が良くなってきた。耳鳴もあるが忘れているくらい。
Day30、平均血圧130-150/65。体調が良い。前のような疲労倦怠感、すぐ臥床してしまうことはなくなった。とにかく体調が良い。耳鳴はあるがあまり気にならなくなった。夜もよく眠れるようになってきた。口唇の色素沈着も薄くなってきた気がする。右第2指の爪の色素沈着も薄くなってきた。瘀点や瘀斑、苔も薄くなってきた。
Day75 140/70。調子良くて何でも食べられるようになり、ちょっと太ってきた。
Day109 血圧が下がりフラフラする時があるので、セララを間引いていた。七物降下湯を飲んでから、食欲が出て、元気になって体調が良くなってきた。それまでは1年で10kg痩せてきていたが、徐々に戻ってきた。セララ50mgから25mgへ減量。
【症例4】
主 訴:上半身の発汗とほてり、足冷、動悸、耳鳴、不眠、抑うつ気分
現病歴:
X年5月から不眠、動悸、耳鳴あり、人と話したくないなど鬱的になった。会社も8月に引退し、ずっと家にいる。内科、脳外科など色々調べたが異常なく、自律神経失調症として心療内科通院中。漢方治療希望で当科受診。
現 症:舌候 淡紅・白苔+・舌質厚い・舌下静脈+、脈候 大・硬・緊
腹候 腹力4/5、前額部が脂でテカテカ光っている。多弁で早口。
経 過:
6/19 気逆、上焦の熱証、解毒証と考え荊芥連翹湯。
6/22 足冷、上半身のほてりも良くなってきた。
7/02 ほてりはかなり薄くなってきた。動悸も耳鳴もほとんど気にならなくなってき
た。気持ちの落ち込みはあるが、前よりは良い。
7/17 首から上の汗はあるが、前よりは減っている。
8/02 ほてり、発汗はまあまあ落ち着いている。2-3/10程度。気持ち的にも落ち着い
ている。笑顔あり。
ファーストチョイスはやはり釣藤散であろう。その次に使うの八味丸や牛車腎気丸などの腎気丸類。肝気鬱結があれば柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤。めまいを伴う水滞があれば苓桂朮甘湯、真武湯などの利水剤を用いる。また気鬱が原因になっていることがあるので、半夏厚朴湯や香蘇散などを併用しても良い。高血圧性のもので実証の者には黄連解毒湯などの瀉心湯類を用いることもある。
耳鳴は現代医学でも漢方医学でも大変難しい疾患で、耳鳴を苦に漢方外来を訪れる患者さんが後を絶たない。しかし私の治験では、漢方治療で完全になくなる方もいらっしゃるが、なくならないまでも日常生活に支障を来さないレベルまで改善した方が多数いらっしゃる。難治の耳鳴でも、漢方治療は十分に試す価値があると思う。