冷え症


【症例1】

主訴:下肢の冷え

現病:2年前の夏にクーラーに当たってから主訴を自覚。冬場に入り座っているのが我慢できないくらいに悪化。風呂に入ると冷えは一時的に取れる。循環器でABIなどの精査を受けたが異常を指摘されなかった。

現症:候 淡紅、歯根+、脈候 大・硬・実、腹候:腹力3/5、左右胸脇苦満±、心下痞+、左右臍下に圧痛+、臍下不仁±

経過:体力中等度以上の冷えととらえ、麻杏薏甘湯。 Day14、効果なく、血虚・腎虚と考え疎経活血湯、八味丸へ変更。Day303-7/10に改善。Day45、冷える時はあるがあまり長く続かなくなった。会社で座っている時が一番辛い。加工附子1.2g3×追加。Day75、更に改善。でもレッグウォーマーは離せない。加工附子末1.5g3×へ増量。Day1053-4/10まで改善。Day135、1/10となりついにレッグウォーマーを止められた。

 


【症例2】

主訴:腰痛、左下肢しびれ、倦怠感、冷え、こむら返り、無月経、食後の眠気

現病歴:

腰痛、下肢しびれで整形受診、精査するも異常指摘されず、X1/6漢方治療希望で当科受診。月経はX-13月から止まっている。

現症:

舌候 淡紅、脈候 弱・渋、腹候 腹力2/5、腹壁がガチガチ、くすぐったがり++、腹壁は薄い

経過:                     

Day0 気血両虚、寒証と考え、十全大補湯、加工附子1g3×。

Day15 こむら返りはなり、体も温まり、食後の眠気もなくなった。腰痛、しびれ、    は同じ。

Day49 薬を2週間ほど切らしていた。飲んでいる間は、下肢しびれ、だるさ、冷えは   よくなっていた。薬がなくなってからあくびが増えた。紅参末1.2g3×追加。2   ケ月処方。

Day139 2×で飲んでいた。飲まないと凄く疲れてあくびがすごくなる。

Day216 スポーツジムを5-6/週行けるくらい元気になったが、過労で受診。風邪を    引きやすくなった。ほどほどにするよう養生を指導し、同じ処方を継続とし    た。

 


【症例3】

主 訴:左肩の冷えと痛み

現病歴:

 3,4年前に玄関で転倒しむち打ちを受傷。その後から主訴が続いている。H2310/31当科受診。

現 症:舌候 淡白・厚・歯痕跡±、脈候:硬・渋、腹候:診ていない

     肩痛は温めると良くなる、手は普段から冷たい、人の倍汗をかく

【経過】

Day 0 寒証 、表虚と考え、桂枝加苓朮附湯。 

Day 58 左肩痛多少良い。漢方が効いている感じがする。風呂で温めると更に良くなる。

Day 92 左肩が冷たいのも少し良い感じ。寒いと痛くなる。

Day129 左肩の冷えと痛みは5/10まで大分改善した。前は眠れないくらい冷たかった。

Day189 左肩痛は大分良い。冷えも取れた。

Day279 桂枝加苓朮附湯飲んでから、胃腸の調子が良くなり、肩も痛くなくなった。


【症例4】

主 訴:上半身の発汗とほてり、足冷、動悸、耳鳴、不眠、抑うつ気分

現病歴:

 X5月から不眠、動悸、耳鳴あり、人と話したくないなど鬱的になった。会社も8月に引退し、ずっと家にいる。内科、脳外科など色々調べたが異常なく、自律神経失調症として心療内科通院中。漢方治療希望で当科受診。

現 症:舌候 淡紅・白苔+・舌質厚い・舌下静脈+脈候 大・硬・緊

    腹候 腹力4/5、前額部が脂でテカテカ光っている。多弁で早口。

経 過:

6/19 気逆、上焦の熱証、解毒証と考え荊芥連翹湯。

6/22 足冷、上半身のほてりも良くなってきた。

7/02 ほてりはかなり薄くなってきた。動悸も耳鳴もほとんど気にならなくなってき

   た。気持ちの落ち込みはあるが、前よりは良い。

7/17 首から上の汗はあるが、前よりは減っている。

8/02 ほてり、発汗はまあまあ落ち着いている。2-3/10程度。気持ち的にも落ち着い

   ている。笑顔あり。


   冷え症の漢方治療


 冷え性には漢方的には5つの原因があると考えられる。


 1つめは血虚。補血剤である当帰芍薬散、温清飲、温経湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯などを用いる。

2つめは瘀血。駆瘀血剤である桃核承気湯、桂枝茯苓丸、通導散などを用いる。

3つめは水毒。利水剤である当帰芍薬散、半夏白朮天麻湯、真武湯、苓姜朮甘湯などを用いる。

4つめは脾虚。補気剤である人参湯、啓脾湯、六君子湯、小建中湯などを用いる。

5つめは気逆 。降気剤である桃核承気湯、加味逍遥散、女神散、釣藤散などを用いる。

 また上記が複数に存在していることもある。


 このように、「冷え」と言っても、原因が多岐にわたるので、漢方治療するにあたっては、まずは患者さんの原因となっている冷えがどこからくるのか、を正確に弁証(診断)する必要がある。冷えといえどもあなどるなかれ、意外と奥が深いのである。